紅茶型録ーTEA Catalogue

この連載ではティーブレンダー 熊崎俊太郎が生み出してきた数多のブレンドティーから気まぐれにひとつを挙げ、そのとき考えていたことともに、ブレンドについてのあれこれを私家版の≪紅茶型録≫としてお伝えしていきます。

フィーユ・ブルー ティーブレンダー:S.Kumazaki

ピーチティー <フィーユ・ブルー>(2007)①

(2007~現在休止中)

日本人に好まれる
そのイメージに合ったピーチティーとは

フィーユ・ブルー創業時に登場したブレンドティーのひとつ。当時、発売早々に洋菓子店とのコラボレーション企画があり、コンビニエンスストアでの限定セット販売も行われた。
残念ながら原料などの諸事情にて現在休止中だが、根強いファンに長年支えられ、ありがたいことに、今でも再開のリクエストを多数いただいている。

「フィーユ・ブルー」は(偶々ではあるが)自分が紅茶を勉強し始めて20年、ティーブレンダーになって10年、という節目の年に設立された。この新しい紅茶ブランドとそれを製造販売する会社が立ち上がり、商品の初期ラインナップを定めるとき、商品開発責任者として、これまでの経験に基づいた様々なアイテムの社内試作提案を一気に行った。それなりの種類があるので、個々の内容については、おいおいまた触れることになるだろう。
そのとき、ピーチティーも定番商品の候補に挙がり、検討の結果、既にこれまでの仕事で使用実績のあったブレンドレシピが採用された。試飲会と会議の際にも、すんなりと決まったように記憶している。自分でもお気に入りのアイテムだったので、嬉しくもありホッとした。

桃の香りがする紅茶、ピーチティー。昔から世界中で人気の高いフレーバードティーのひとつで、各国の紅茶メーカーがこぞって発売している。
食品や飲料全般に言えることだが、ポピュラーな商品であればあるほど、その風味は消費される国や地域ごとに、好まれる方向性を意識して作られるものだ。だから輸入食材の店では往々にして不幸な事態が発生する。本国では人気の商品が、このチーズは塩気が強すぎる、このトマトソースは酸味が強すぎる、といったように、本場風であり過ぎて日本人の口には合わないものとして不本意な評価を受けたり、違和感を持たれたりしてしまうのだ。
紅茶でも同じようなことがよくある。ピーチティーの場合も、欧米のメーカー品は黄桃のイメージが風味の主流で、更にいえば日本人にはスモモに近い甘酸っぱさを感じさせ、これがピーチ? と言われてしまうものが多い。もちろんこれはこれで、さっぱりとして爽やかな美味しさがある。例えばアイスティーにしてピザやホットドッグなどと合わせれば、とびきりのフードペアリングだ。

メーカー勤務時代、このヨーロピアンな黄桃風のピーチティーも仕事で作っていたが、並行して積極的に取り組んでいたのは、白桃風のピーチティーだった。

水蜜桃(語源や正確な用法の蘊蓄は控えるので興味のある方はぜひ調べていただきたい)と、実に美味しそうな表現で呼ばれることも多い白桃は、日本が世界に誇る商品作物だ。日本人にとってピーチといえば、黄桃のキレのある爽やかさと酸味よりも、白桃の優しい瑞々しさと濃密な甘い香りの方が一般的な「もも」のイメージに近く、小売商品の紅茶フレーバーの選択肢としても親しみを持たれやすい。さらに、白桃の香気成分にはミルクの香りに近い要素が多いため、そのニュアンスを活かした紅茶は、業務用としてのニーズも確実に見込まれる。ふんわりと甘くクリーミーで、上品に仕上げた「日本独自の発展を遂げた昔ながらの洋菓子屋さんの生ケーキ」との相性が抜群なためだ。

過去、ティーブレンダーとしての研鑽を積むなか、黄桃系、白桃系、両者ミックス系など多くのレシピを制作したが、特に仕事を離れて≪趣味の紅茶の時間≫にあっても、個人的にこだわっていたのが、ニルギリ(紅茶)ベースの白桃フレーバードティー、だった。

どのような方法で、単なるフルーツティーとして終わらせない複雑味を出したのかは、また次回に。

ティーブレンダー 熊崎俊太郎
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