紅茶型録ーTEA Catalogue
この連載ではティーブレンダー 熊崎俊太郎が生み出してきた数多のブレンドティーから気まぐれにひとつを挙げ、そのとき考えていたことともに、ブレンドについてのあれこれを私家版の≪紅茶型録≫としてお伝えしていきます。
フィーユ・ブルー ティーブレンダー:S.Kumazaki
2020.09.04
ティーブレンダーに必用なこと
「ティーブレンダー(紅茶調合師)※後述」と名乗らせていただくようになってから、ずいぶんと長い時間が経った。
この肩書は、国家資格でも国際免許でもない。まあ、紅茶メーカーの社内称号のようなものではあるが、紅茶業界のごく内々のことだ、と言ってしまえばそれまでで、何かの社会集団や公的団体が認定したものでもない。「画家」や「音楽家」と同様に、基本的には≪自称≫もしくは《通称》である。
すなわち、本人が、そう名乗っても社会的に恥ずかしくないかどうか、周囲がそう認めてくれ続けるかどうか、ということになる。そのためには、行動あるのみ。その看板を降ろすまでは、ひたすら修練、日々勉強、そして成果物を世に問い続けねばならない。
自分は、放っておくとだらだらごろごろの、社会貢献どころか社会参加も危うい生来の怠け者なので、これぐらいの緊張感があって丁度良い、と思っている。
それに何より、お茶が大好きだ。
仕事の状況によっては「ティーテイスター(紅茶鑑定士)」という肩書の方を使うこともある。こちらはティーブレンダーよりも歴史のある名乗りで、いくつかのローカルな資格認定制度も、名称こそ様々だが存在し、多少は権威の香り……悪く言えば臭いがする。
とにかくこれらの仕事、茶葉を調合して製品を作るためには、当然ながら素材となる原料茶葉を鑑定することから始まる。
歴史的にみても、まずは茶葉の品質を見定め、値付けして風味を保証し、商品として販売するための(第一の)職能を持つ者=ティーテイスターという役職が確立した。
次に、商品の品質と価格を常に安定させるために、様々な原料茶葉をブレンドして製品づくりを行う(第二の)職能を持つ者=ティーブレンダーという役職に発展した。そしてさらに、新奇な味わいの製品をブレンドして作り出す(第三の)職能がクローズアップされ、それが売り手の宣伝戦略にも組み込まれるようになった結果、次第にティーブレンダーという名乗りが目立つようになったのが現代、というわけだ。
なお、さほど昔ではない以前は、これらの役職を総合して「ティーテイスター(紅茶鑑定士) 」とだけ、呼んでいた。また、このコラムでは区分を期すべく冒頭で、強引に(紅茶調合師)と和訳した「ティーブレンダー」も、今のところは(紅茶鑑定士)と説明されることが一般的だ。実に曖昧なものだが、これらの変遷については、いずれじっくり追ってみたいと考えている。
つまるところ、基本的にティーブレンダーは、ティーテイスターを兼ねているもの、ということになる。自分もそうだったが、メーカーでの仕事においては、まずティーテイスターとしての修練を積み、その後ティーブレンダーとしての業務に就く、という流れになる。まあ、材料の鑑定を一切せずに直感で混ぜ合わせれば製品ができてしまう、神の如きティーブレンダーも、この世のどこかには居るのかもしれない。
この仕事は人間の五感(専門的には「官能」という)が前提のため、職能というよりは才能、と呼ぶべきものをそれなりに求められてしまうが、プロとしての製品作りの職能は、市況や流行の分析、原料を組み合わせる知識と経験、それらをすぐに活用できる記憶力や几帳面さがあればカバーできる。峻別できるものではないが、方向性としてティーブレンダーにも天才型と秀才型が存在する、といえよう。
そして自分は……どちらなのだろう? 己のことはよくわからない。
今のところ、どちらでもない別枠、変人型、貴公子ならぬ奇行師、といった評価は長きにわたって多方面から頂戴しており、それは本人もいたく気に入っている。
そう。能力云々はさておき、自分が「ティーブレンダー」という名乗りを続けていられるのは、ただ≪好きであり続けること≫がずっとずっとできている結果、ではなかろうか。
……やれやれ。このコラムでは、過去の成果物をとにかく淡々と振り返ろう、と最初は思ったのだが、なかなか続々とブレンドティーが登場する、という流れにはならないらしい。